介護経営コラム

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財務省からの提言 介護保険給付範囲の在り方の見直しについて

財務省が令和7年4月23日に行った財政制度審議会の『持続可能な社会保障制度の構築(財政各論Ⅱ)』の資料の中に『今後の介護保険制度改革の方向性(総括)』についての提言がされている箇所があります。

本コラムでは、財務省が提言する制度の持続性確保のための見直しについて、以下の3つの視点を取り上げ、それぞれ私見を交えて解説をしていきます。今回は②について詳しく述べます。

  1. 保険給付の効率的な提供 
  2. 保険給付範囲の在り方の見直し 
  3. 高齢化・人口減少下での負担の公平化

介護保険給付範囲の在り方の見直し

要介護度・要支援度の違いにかかわらず、現行制度では同じ保険給付率が適用されています。この制度を改め、介護保険給付範囲の見直しを進めるために、財務省は以下の3つの項目について提言を行っています。

(1)軽度者に対する生活援助サービス等の地域支援事業への更なる移行
介護人材や財源に限りがあるため、重度者への給付を重点化するとともに、生活援助等は地域の実情に応じて効率的に提供していく必要があり、軽度者(要介護1・2)に対する訪問介護・通所介護について、地域支援事業への移行を目指すべきと提言しています。そのためには、段階的に生活援助型サービスを中心とし、地域の実情に応じて多様な主体が効果的かつ効率的なサービスの提供を可能にすべきであると提言しております。

(2)福祉用具の貸与と販売の選択制導入等の効果検証
令和6年度介護報酬改定において、これまで貸与のみだった固定用スロープ、歩行器(歩行車を除く)、単点杖(松葉づえを除く)及び多点杖について、貸与と販売の選択制が導入されました。この変更は、利用者負担の軽減を目的とし、また福祉用具貸与の給付費が毎年約6%の割合で増加している現状に対応するための施策です。 今後も在宅介護の需要が高まることが予測されるため、財務省は、給付費抑制を目的としたさらなる制度の見直しが必要だと提言しています。 また、これらの福祉用具に関する効果や課題の調査・検証を踏まえ、対象品目の拡大を検討するべきであるとも述べています。

(3)保険外サービスの活用
介護保険事業者が保険内と保険外のサービスを柔軟に組み合わせてサービス提供することは、高齢者の多様なニーズに対応し、国民の利便性向上に寄与するだけでなく、事業者にとっても効率的なサービス提供や、収益の多様化、経営基盤の強化につながると考えられます。結果として、職員の賃上げにもつながる可能性があります。

ただし、介護事業者による保険外サービスの活用に際しては、自治体ごとにルールの解釈が異なり、保険外サービスが認められないケースもある(いわゆるローカルルール)という課題が指摘されています。 そのため、財務省は自治体のローカルルールの実態把握を進めた上で、国民の利便性向上に資するよう介護保険外サービスの柔軟な運用を認めるべきと提言しています。

また、民間サービスとの連携を推進し、ケアマネジャーがシャドウワークとして担ってきた業務を保険外サービスに位置付けることで、事業者の収入増や専門職の負担軽減を図るべきとしています。 この取り組みを促進するため、第10期介護保険事業(支援)計画の策定にあたり、自治体向けの「基本指針」に民間事業者との連携に関する考え方を明記し、介護報酬体系におけるインセンティブ付与についても検討すべきと提言しています。

今後の展望

軽度者に対する生活援助サービス等の地域支援事業への更なる移行については、財務省が10年以上前から提言していますが、この移行を実現することは、現実的には非常に困難です。 その理由として、受け皿となる地域支援事業の整備状況は自治体ごとに大きな差があり、一律の移行が難しいことが挙げられます。

福祉用具の貸与と販売の対象品目の拡大については、効果検証の結果を踏まえて判断されるでしょう。今後の調査次第で、さらなる拡充が検討される可能性があります。

保険外サービスの活用については、経済産業省が令和7年1月から「高齢者・介護関連サービス産業振興に関する戦略検討会」を開催しており、ここでも議論が進められています。

これらの提言は財務省の意見であり、厚生労働省の審議会では、これらの意見をもとに介護報酬改定の議論が進められます。 これらの提言がすべて実行されるとは限りませんが、「介護保険給付範囲の見直し」という観点において重要な示唆を含んでおり、令和9年度介護報酬改定への影響は避けられないでしょう。

この記事の執筆者

佐藤 慎也
介護経営コンサルタント

◆プロフィール
組織の仕組みづくりや人材教育などを得意分野とし、介護保険法はもちろんサービス付き高齢者向け住宅、住宅型有料老人ホームなどの制度に精通。 介護経営コンサルタントとして、今までに50法人以上のコンサルティング実績を持ち、自らも介護事業の運営に携わっていたため、経営者からスタッフまで、それぞれの立場にあった指導・提案をすることで圧倒的な支持を得ている。 介護業界の動向を解説したメルマガの発行やコラムの執筆を行いながら、全国各地にて経営者・管理者向けのセミナーやスタッフを対象にした研修まで幅広い分野で年間100本以上の講演を行う。

執筆者

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