介護経営コラム
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介護業界における労働災害発生状況
R29年度→R4年度で腰痛災害の発生が1.5倍に
令和5年5月23日(火)厚生労働省の労働基準局安全衛生部安全課が令和4年の労働災害発生状況を公表致しました。それによると労働災害による死亡者数は774人(前年比4人減)と過去最少となった一方で休業4日以上の死傷者数は132,355人(前年比1,769人増)と過去20年で最多となったそうです。
社会福祉施設における労働災害発生状況(事故の型別)
業種別の社会福祉施設における労働災害発生状況を見てみると、H29年度~R4年度の間で動作の反動・無理な動作、転倒の2項目で労働災害の発生が1.5倍増になっていることがわかります。動作の反動・無理な動作はいわゆる腰痛災害にあたる内容となっております。
働く人の高齢化×ご利用者さまの体格アップが要因?
厚生労働省は平成25年に「職場における腰痛予防対策指針」を改訂し、介護・看護作業における抱上げに関して「移乗介助、入浴介助及び排泄介助における対象者の抱上げは、労働者の腰部に著しく負担がかかることから、全介助の必要な対象者には、リフト等を積極的に使用することとし、原則として人力による人の抱上げは行わせないこと。また、対象者が座位保持できる場合にはスライディングボード等の使用、立位保持できる場合にはスタンディングマシーン等の使用を含めて検討し、対象者に適した方法で移乗介助を行わせること。」と示しました。このような対策の指針などもあり、近年ノーリフトケア活動に積極的に取り組む都道府県や事業者さんなどが多く見受けられるようになりました。
しかし、上記の社会福祉施設における労働災害発生状況(事故の型別)が示すように腰痛災害は減るどころか増加の一途をたどっております。(R3→R4は若干数減少)
この原因はなんなのか?明確な答えがあるわけではありませんが、私の推測では介護現場で働く人の高齢化が要因の1つではないかと思っております。下記の円グラフは毎年夏に介護労働安定センターが公表する介護労働実態調査結果報告書のデータを元に介護職(訪問介護・施設介護職)約45,000人の年齢分布を作成したものとなっております。
このグラフを見て頂くとわかるように60歳以上の介護職が全体の27%、全体の1/4以上を占めていることがわかります。2014年段階では60歳以上の介護職は全体の17.4%でしたので毎年1%以上の割合で増加していることになります。人生100年時代と呼ばれるなかで働く人の年齢が高くなることは自然の摂理かもしれませんが、やはり若い頃と比較すると力などは弱くなりますし、怪我のリスクも高いです。介護職の平均年齢は50歳以上となっており、他の産業と比べると平均年齢が高くなっております。腰痛災害が増加している要因の1つはこの年齢によるものが大きいのではないかと思います。
それともう一つの要因がご利用者さまの体格アップではないかと思います。こちらについてはデータでお示しするものはありませんが、10年~15年前に比べると介護施設のご利用者さまの体格がずいぶんアップしているように感じます。私が現場に携わっていた頃は小柄な女性のご利用者さまが多く、男性のご利用者さまはそこまで多くありませんでした。しかし、時代は変わり今では男性のご利用者さまも多くおられますし、昔に比べると体格の良い方も格段に増えました。体格の良いご利用者さまは高齢の女性職員が抱え上げを行えば当然、腰痛になるリスクは高くなります。
労働災害防止に取り組む意義
日本は少子高齢により人口減少、働き手が急減。介護業界においては介護を必要とする人が今後益々増加することを考えればどのように人材確保をしていくかは大きな経営課題となっています。労働災害が発生すれば職員が休業し、その分を他の職員がカバーするための過重労働となり、その人が疲れて離職してしまうことも起こりえます。そうすると人手不足に拍車がかかり、最終的には事業継続に支障がでてしまいます。
働く人が高齢化していく中で、離職防止として入浴支援機器として入浴リフトを導入することや移乗介助機器を導入することで、長く安全に働ける環境をつくることはこれからの経営では必須事項といえます。
この記事の執筆者
佐藤 慎也
介護経営コンサルタント
◆プロフィール
組織の仕組みづくりや人材教育などを得意分野とし、介護保険法はもちろんサービス付き高齢者向け住宅、住宅型有料老人ホームなどの制度に精通。
介護経営コンサルタントとして、今までに50法人以上のコンサルティング実績を持ち、自らも介護事業の運営に携わっていたため、経営者からスタッフまで、それぞれの立場にあった指導・提案をすることで圧倒的な支持を得ている。
介護業界の動向を解説したメルマガの発行やコラムの執筆を行いながら、全国各地にて経営者・管理者向けのセミナーやスタッフを対象にした研修まで幅広い分野で年間100本以上の講演を行う。
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