介護経営コラム
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有料老人ホームの規制強化による高齢者住宅の経営への影響は?
高齢者住宅の多様化が進む中、介護保険制度の持続可能性とサービスの質の確保が改めて問われています。厚生労働省は令和7年4月より「有料老人ホームにおける望ましいサービス提供のあり方に関する検討会」を開催し、同年11月に議論のとりまとめを行いました。本コラムでは、検討会の議論を踏まえ、高齢者住宅へ及ぼす影響を考察します。
規制強化の内容
検討会では大きく分けて以下の3つのテーマで議論がされました。
- 有料老人ホームの運営及びサービス提供のあり方
- 有料老人ホームの指導監督のあり方
- 有料老人ホームにおけるいわゆる「囲い込み」対策のあり方
実に様々な観点から多くの内容が審議され、主だったものとして、今後以下の内容が強化されていく方向となります。
- 制度面:登録制・更新制の導入(現行は届出制)
- 基準面:人員配置基準、設備基準、虐待防止・事故防止措置
- 研修面:認知症ケア、高齢者虐待防止、介護技術研修
- 契約面:契約書や重要事項説明書の契約前書面説明・交付の義務付け
- 紹介面:入居者紹介事業の優良登録制の導入・紹介料の透明性
- 指導面:老人福祉法に基づく統一的な基準を策定
- 利用者保護:かかりつけ医やケアマネ変更の強要禁止
- 移行促進:特定施設への移行、外部型特定の活用
今後、更に社会保障審議会介護保険部会等において議論の上、これらを具体的に進めていく形となりますが、基本的な路線は上記の通りとなります。
高齢者住宅の運営への影響は?
上記のように今回の検討会を機に多くの内容が規制強化されていくこととなるため、高齢者住宅を運営している事業者への影響はかなり大きなものとなります。
尚、厚生労働省は本検討を実施するにあたり、サービス付き高齢者向け住宅のうち食事提供をしている事業者は96%以上あり、定義としては有料老人ホームに含まれる見解を示しております。
登録制や更新制、職員の配置義務や研修、契約書の事前説明など確かに多くの内容が規制強化されるため、運営事業者からすれば今よりも負担は大きくなりますが、高齢者住宅を運営している多くの事業者が、介護保険事業を行っているのは周知の事実であり、介護保険事業を行っている事業者であれば、すでに実施している内容と大きな差はないため、影響はありますが過度に身構える必要はないでしょう。
介護報酬改定による同一建物減算は?
今回、かかりつけ医やケアマネ変更の強要禁止としておりますが、実際のオペレーションや感染症リスク、防犯リスクを考えた場合、お願いベースで自社もしくは関連のケアマネにケアプランを持ってもらう流れはあまり変わらないと思います。実際、利用者、家族が囲い込みではなく、包括的に同一事業者に支援してもらうことを望む声は多いように思います。
そうすると規制強化をしても結局は今までとそんなに変わらない話となってしまいますので、現実的な1手として、訪問介護や居宅介護支援の同一建物減算の引上げが予想されます。ここは財務省の思惑とも一致するため、令和9年度介護報酬改定で実施される可能性は非常に高いでしょう。同一建物減算の引上げがされた場合、多くの事業者の経営に大打撃を与えることになります。
ただ、一方で10月から新総理となった高市首相の発言から、現時点では令和9年度介護報酬改定はプラス改定が見込まれます。そうすると同一建物減算、報酬改定の引上げ率にもよりますが、相殺される可能性が高いのではないかと思っています。
上記の内容はあくまで執筆している時点(25/11/12)で入手している情報に基づいた見解や解釈となります。今後の制度改定は事業者の経営に直接影響を及ぼす可能性が高いため、最新の議論を注視しながら、柔軟な対応策を検討していくことが重要です。
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この記事の執筆者
佐藤 慎也
介護経営コンサルタント
◆プロフィール
組織の仕組みづくりや人材教育などを得意分野とし、介護保険法はもちろんサービス付き高齢者向け住宅、住宅型有料老人ホームなどの制度に精通。
介護経営コンサルタントとして、今までに50法人以上のコンサルティング実績を持ち、自らも介護事業の運営に携わっていたため、経営者からスタッフまで、それぞれの立場にあった指導・提案をすることで圧倒的な支持を得ている。
介護業界の動向を解説したメルマガの発行やコラムの執筆を行いながら、全国各地にて経営者・管理者向けのセミナーやスタッフを対象にした研修まで幅広い分野で年間100本以上の講演を行う。
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