介護経営コラム

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有料老人ホームの規制強化によって特定施設への移行は進むか?

厚生労働省は令和7年4月より「有料老人ホームにおける望ましいサービス提供のあり方に関する検討会」を開催し、同年11月に議論のとりまとめを行いました。本コラムでは、検討会の議論を踏まえ、住宅型有料老人ホームの特定施設への移行について考察します。

特定施設への移行について

特定施設への移行について、とりまとめでは以下のように記載がされています。

〇介護保険事業計画においては、ニーズに応じて適切に特定施設を含む各サービスの必要量を見込むことが重要である。そのため、入居者が必要とする介護サービスが特定施設と変わらない場合や、一定人数以上の中重度の要介護者を中心に受け入れる等の場合、特定施設への移行のメリットを明確にする等により、人員や設備、運営体制について一定以上の体制が求められる特定施設への移行を促すことが考えられる。

〇自治体にとって移行促進のメリットが明確になるよう整理する必要がある。その際、管内の「住宅型」有料老人ホームに係る給付状況、移行による給付への影響などを簡便な方法で把握できるようにする必要がある。

さらに外部型特定の活用についても言及しており、以下のように記載がされております。

〇人員などの体制確保が困難で、一般型特定施設への指定申請が難しい場合は、外部サービス利用型特定施設に指定申請を行うことも考えられるため、「住宅型」有料老人ホーム等の移行も想定した基準や報酬体系の整備も検討される必要がある。

現実的には移行は難しいか

事業者が住宅型有料老人ホームを選択する理由の背景に特定施設(介護付き有料老人ホーム)の総量規制があることも一因となっております。しかし、実際に総量規制の緩和をしても移行する事業者は少ないと予想されます。

下記の図のように特定施設(介護付き有料老人ホーム)でない高齢者住宅は全国に約2万件あります。そのうちの約3割にあたる6千が中重度・難病者等を中心に受け入れる、いわゆるホスピス、ナーシングホーム系となります。これらは特定施設に移行するよりも在宅としておくほうが、ビジネスモデル的に売上が良いため率先して移行はしないです。

一方、7割の住宅は移行した場合、介護報酬が安定的に上がり経営は行いやすくなります。そうすると移行する所が増えそうですが、人員配置基準として施設の入居者が30人以下の場合、原則、日中は1人以上の看護師が必要となります。

出典資料 251031参考資料2 有料老人ホームの現状と課題について

また、当然ですが軽度者相手の在宅サービス(訪問介護やデイ)で給付を抑えられていた分が、特定施設へ移行した場合、余分にかかる事が予想されます。そうすると自治体からすれば給付費の急増に繋がるため安易に移行を促すわけにはいかない話となります。

移行をすることで給付費を抑制することのできる、中重度・難病者等を受け入れている事業者は売上が下がるため移行せず、移行をしたい事業者は看護師の採用などがネックに。また、そういう事業者が移行されたら給付費が増大する可能性がある。このような状況になるため、今回の検討会を経て、仮に特定施設への移行が可能になっても、限定的な形にしかならないでしょう。

外部型特定の活用についても言及されておりますが、そもそも現時点で6件しか行っていないモデルを多くの事業者が賛同して移行するとは思えず、事業者にも一定程度メリットのある基準や報酬体系の整備をしないと移行は進まないでしょう。

今後の制度改定において、移行促進策が議論されることは確実ですが、事業者・自治体双方にとってメリットが明確でなければ進展は限定的にとどまるでしょう。制度設計の工夫と現場の声の反映が不可欠です。

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この記事の執筆者

佐藤 慎也
介護経営コンサルタント

◆プロフィール
組織の仕組みづくりや人材教育などを得意分野とし、介護保険法はもちろんサービス付き高齢者向け住宅、住宅型有料老人ホームなどの制度に精通。 介護経営コンサルタントとして、今までに50法人以上のコンサルティング実績を持ち、自らも介護事業の運営に携わっていたため、経営者からスタッフまで、それぞれの立場にあった指導・提案をすることで圧倒的な支持を得ている。 介護業界の動向を解説したメルマガの発行やコラムの執筆を行いながら、全国各地にて経営者・管理者向けのセミナーやスタッフを対象にした研修まで幅広い分野で年間100本以上の講演を行う。

執筆者

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