介護経営コラム

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有料老人ホームの指導監督のあり方について

高齢者人口の増加に伴い、住まいの選択肢が広がる一方で、サービスの質や運営体制に対する懸念も高まっています。厚生労働省は令和7年4月より「有料老人ホームにおける望ましいサービス提供のあり方に関する検討会」を開催し、同年7月に議論のとりまとめを行いました。本コラムでは「有料老人ホームの指導監督のあり方」について解説します。

有料老人ホームの指導監督のあり方については参入、運営時における指導、行政処分対応にわけて論じられております。

参入時の規制の課題と今後の方向性

住宅型有料老人ホームは、現行では届け出制となっており、誰でも参入が可能です。誰でも参入が可能であるため、質や妥当性を担保できない事業計画であっても、届け出により開設が可能となっております。こうした問題点を解消するために、事前審査や登録制度の導入が検討されるべきではないかと論じられております。一方で、一部の問題事例への対応が多くの善良な事業者の生産性を阻害することのないようにするべきや、ローカルルールが発生しない明確な規制にするべきだという意見も出ております。筆者としては、一定の質を担保するために新規申請時における事前審査の基準が少し引きあがるのではないかと思っております。

標準指導指針や参入後の規制のあり方

有料老人ホームの標準指導指針は、あくまで行政指導であり強制力を持ちません。一方で、介護保険サービスの場合は強制力があるため、運営指導で問題があれば監査に切り替わり、最悪の場合は指定取り消しなどの行政処分が下されることがあります。現行の標準指導指針では、改善指導に応じない事業者が一定数存在しており、今回の標準指導指針に法的拘束力を持たせることにより、サービスの質や透明性の確保をするべきとの意見が出ております。

行政処分の限界と対応の方策

現行の制度では、行政側として悪質な事業者に対する事業制限や停止命令を検討する場面もあるそうですが、明確な処分基準が存在しないため対応に苦慮している実態があり、先述したように標準指導指針の見直しを含めて、経営の継続が困難と見込まれる事業者や悪質な事業者に対しては、迅速な事業停止命令等の行政処分を可能としてはどうかという意見が出ております。

参入時に規制がないことで多くの事業者が参入を行い、介護施設よりも多い棟数となっているのが今の高齢者向け住まいです。また、強制力がない指導指針のおかげでフレキシブルな運営ができ、それにより安価な形で入居ができ、経済的に助かっている利用者や家族がいる側面もあります。一方で、数が多くなるなかで良識の範囲を超えて運営を行う事業者が一定数いることで行政側も対応に困っており、新たな運営指導のあり方について検討する時期に来ているということになります。

このように、今回の検討会のとりまとめは、事業者・利用者双方に大きな影響を及ぼす可能性があるため、今後の審議会の議論を継続的に注視し、適切な対応を検討していくことが求められます。

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この記事の執筆者

佐藤 慎也
介護経営コンサルタント

◆プロフィール
組織の仕組みづくりや人材教育などを得意分野とし、介護保険法はもちろんサービス付き高齢者向け住宅、住宅型有料老人ホームなどの制度に精通。 介護経営コンサルタントとして、今までに50法人以上のコンサルティング実績を持ち、自らも介護事業の運営に携わっていたため、経営者からスタッフまで、それぞれの立場にあった指導・提案をすることで圧倒的な支持を得ている。 介護業界の動向を解説したメルマガの発行やコラムの執筆を行いながら、全国各地にて経営者・管理者向けのセミナーやスタッフを対象にした研修まで幅広い分野で年間100本以上の講演を行う。

執筆者

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