介護経営コラム

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有料老人ホームの運営及びサービス提供のあり方について

高齢者の住まいとサービスの質が問われる中、厚生労働省は令和7年4月より「有料老人ホームにおける望ましいサービス提供のあり方に関する検討会」を開催し、同年7月に議論のとりまとめを行いました。本コラムでは、その中でも特に注目すべき「有料老人ホームの運営及びサービス提供のあり方」について解説します。

有料老人ホームの運営及びサービス提供のあり方は4つの内容に分かれており、1つ目がサービスの質の確保、2つ目が利用者による有料老人ホームやサービスの適切な選択、3つ目が有料老人ホームの定義、4つ目が地域毎のニーズや実態を踏まえた介護保険事業(支援)計画の作成に向けた対応となっております。

有料老人ホームにおけるサービスの質の確保等

サービスの質の確保等では、医療・介護ニーズの高度化への対応として、看取りや医療的ケア、認知症対応などが求められてきていますが、職員配置基準が不明確であることや、虐待・事故防止の体制整備が介護サービスほど厳格に求められていない点などが指摘されており、これらについて今後、どのような対応をするべきかとされております。筆者としては、一定のサービスの質を担保するためには、国による人員基準や体制整備の義務化が今後検討される可能性が高いと考えています。

利用者による有料老人ホームやサービスの適切な選択

適切な選択においては、情報提供のあり方や入居契約時において説明されるべき事項、利用者・家族の意思決定支援、紹介業者の透明性や質の確保について論じられています。現状においては、利用者や家族が十分な情報を得られず、有料老人ホームを選ぶ際に適切な判断をすることが困難であり、中立的な支援者、例えばケアマネジャーや地域包括支援センターの伴走が必要ではないかなどとされております。また、現在は混合玉石の状態で紹介業者が乱立しており、重度の利用者に高額な金額をつけるなどの紹介料の不透明性や制度的な枠組みがないことなどが問題視されております。これについては、紹介業への参入規制として、登録制などの整備が行われる可能性があります。

住宅型有料老人ホームやサ高住の多くは、訪問介護やデイサービスなどの介護保険事業と組み合わせたビジネスモデルとなっており、介護度に応じて紹介料が設定されていることや、そもそも紹介料の原資が社会保障費から賄われていることについて、社会保障費の無駄遣いとみる動きもあります。

有料老人ホームの定義の見直し

有料老人ホームの定義においては、現行では居住+食事の提供、介護(入浴、排せつ、食事)の提供、掃除・洗濯などの家事の供与、健康管理のいずれかを行うと有料老人ホームとしての届け出が必要となります。こうした定義が、自立者のみが入居する高齢者住宅に併設レストランがある場合に老人ホームと判断され届け出が必要となり、夜間の人員配置やスプリンクラーの設置等が課されるので、住宅事業を行う事業者の参入の阻害要因となっているため、見直しをするべきではないかと論じられております。

出典資料:地域包括ケアシステムにおける高齢者向け住まいについて(厚生労働省)

地域毎のニーズや実態を踏まえた介護保険事業(支援)計画の作成に向けた対応

各自治体は介護報酬改定と同じ3年の周期で介護保険事業計画を作成する必要があります。人口動態や高齢化などを踏まえて、各自治体は介護保険サービスの必要量を見極め、特養やグループホームなどの新規公募枠を計画します。第8期の計画から高齢者向け住まいの計画数なども勘案して、必要な整備枠を検討するようにとなっておりますが、自由に参入できる高齢者向け住まいの実態把握は難しく、比較が困難であることから、簡便に住宅型ホームに係る情報を把握できる仕組みが必要でないかと論じられております。

今回の検討会のとりまとめは、有料老人ホームの制度設計やサービス提供の在り方に大きな影響を与える可能性があります。今後の審議会での議論を注視していく必要がありますね。

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この記事の執筆者

佐藤 慎也
介護経営コンサルタント

◆プロフィール
組織の仕組みづくりや人材教育などを得意分野とし、介護保険法はもちろんサービス付き高齢者向け住宅、住宅型有料老人ホームなどの制度に精通。 介護経営コンサルタントとして、今までに50法人以上のコンサルティング実績を持ち、自らも介護事業の運営に携わっていたため、経営者からスタッフまで、それぞれの立場にあった指導・提案をすることで圧倒的な支持を得ている。 介護業界の動向を解説したメルマガの発行やコラムの執筆を行いながら、全国各地にて経営者・管理者向けのセミナーやスタッフを対象にした研修まで幅広い分野で年間100本以上の講演を行う。

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