介護経営コラム

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有料老人ホームにおける「囲い込み」対策のあり方について

高齢者人口の増加に伴い、住まいの選択肢が広がる一方で、介護サービスの質や運営体制に対する懸念も高まっています。厚生労働省は令和7年4月より「有料老人ホームにおける望ましいサービス提供のあり方に関する検討会」を開催し、同年7月に議論のとりまとめを行いました。本コラムでは、検討会の議論を踏まえ、「囲い込み」型ケアプランの課題と今後の制度的対応について考察します。

囲い込み・使い切り型ケアプランへの対応について

住宅型有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)の多くは、訪問介護やデイサービスなどの介護保険事業と組み合わせたビジネスモデルを採用しています。入居を条件に運営事業者の介護保険サービスを利用させる「囲い込み」については、以前より批判の声が上がっていました。

今回の検討会でも、以下のような問題が指摘されています。
入居費用を抑える一方で、過剰なサービスを前提としたケアプランが作成されている。
区分限度支給額の8〜9割を利用するケースが見られ、併設サービスによって収益を補っている事業者が存在している可能性がある。

検討会では、住宅型有料老人ホーム・サ高住のビジネスモデルを以下の3つに分類しています。

モデル住まい部分の利益介護・医療サービス部分の利益特徴
適正適正バランス型
適正~最大最大利益重視・囲い込み型
最小~赤字最大囲い込み型

②や③のモデルが「囲い込み・使い切り型ケアプラン」を生み出す要因とされており、ケアマネジャーの中立性確保が困難になるという指摘もあります。筆者としては、令和9年度の介護報酬改定において、居宅介護支援事業所における同一建物減算が現行の5%から10〜15%へ引き上げられる可能性があると考えています。これは囲い込み抑制の一手として検討されるでしょう。

総量規制の緩和と特定施設への移行

囲い込みによって介護保険の給付費が過剰に使われることは問題ですが、そもそも住宅型有料老人ホームが選ばれる背景には、特定施設(介護付き有料老人ホーム)の総量規制があることも一因です。
今回の検討会では、特定施設が必要な地域については、総量規制の撤廃も検討すべきではないかと論じられており、更に外部サービス利用型特定施設の活用を促進してはどうかというお話も出ております。ただ、現行の外部サービス利用型特定施設では事業者としては移行のメリットが薄いため、同時に基準や報酬体系の整備が必要ではないかともされております。

このように、今回の検討会のとりまとめは、事業者・利用者双方に大きな影響を及ぼす可能性があるため、今後の審議会の議論を継続的に注視し、制度改定に向けた適切な対応を検討していくことが求められます。

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この記事の執筆者

佐藤 慎也
介護経営コンサルタント

◆プロフィール
組織の仕組みづくりや人材教育などを得意分野とし、介護保険法はもちろんサービス付き高齢者向け住宅、住宅型有料老人ホームなどの制度に精通。 介護経営コンサルタントとして、今までに50法人以上のコンサルティング実績を持ち、自らも介護事業の運営に携わっていたため、経営者からスタッフまで、それぞれの立場にあった指導・提案をすることで圧倒的な支持を得ている。 介護業界の動向を解説したメルマガの発行やコラムの執筆を行いながら、全国各地にて経営者・管理者向けのセミナーやスタッフを対象にした研修まで幅広い分野で年間100本以上の講演を行う。

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