介護経営コラム

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財務省からの提言 高齢化・人口減少下での負担の公平化について

財務省が令和7年4月23日に行った財政制度審議会の『持続可能な社会保障制度の構築(財政各論Ⅱ)』の資料の中に『今後の介護保険制度改革の方向性(総括)』についての提言がされている箇所があります。

本コラムでは、財務省が提言する制度の持続性確保のための見直しについて、以下の3つの視点を取り上げ、それぞれ私見を交えて解説をしていきます。今回は③について詳しく述べます。

  1. 保険給付の効率的な提供
  2. 保険給付範囲の在り方の見直し
  3. 高齢化・人口減少下での負担の公平化

高齢化・人口減少下での負担の公平化

介護保険費用は、今後も経済成長を上回る速度で大幅に増加すると見込まれており、制度の持続可能性や給付と負担のバランスを確保することが重要です。 特に、現役世代の保険料負担の増加を抑制するため、介護保険サービスの利用者負担について、所得・資産に応じた負担となるよう見直しを進める必要があり、 財務省は、以下の3つの項目について提言を行っています。

(1)2割負担の範囲の見直し等
負担能力に応じて、増加する介護費をより公平に支え合う観点から、「改革工程」に沿って、 2割負担の対象者の範囲拡大を早急に実現すべきとしています。また、医療保険と同様に、利用者負担を原則2割とすることや、現役世代並み所得(3割)等の判断基準の見直しについても検討を進めるべきだと提言しています。加えて、公平性の観点から、具体的な金融資産・所得の考慮方法についても検討が必要であると述べています。

(2)ケアマネジメントの利用者負担の導入
居宅介護支援は、制度創設時から利用機会を確保するため、利用者負担を求めない形で運用されてきました。 しかし、介護保険制度創設から20年以上が経過し、ケアマネジメントに関するサービス利用が定着した現在、利用者が本来負担すべきケアマネジメント費用を現役世代の保険料で肩代わりし続けることは、世代間の公平性の観点からも不合理であると指摘されています。

そのため、財務省は居宅介護支援に利用者負担を導入することで、質の高いケアマネジメントを選択できる仕組みを構築する必要があると述べています。

(3)多床室の室料負担の見直し
2015年度に、特別養護老人ホームの多床室の室料負担を基本サービス費から除外する見直しが実施されました。 その後、老健や介護療養型(現在の介護医療院)にも同様の見直しを適用すべきとされ、令和6年度介護報酬改定において、一部施設で室料負担の導入が行われました。

しかし、新たに室料負担が導入された対象施設は、老健施設の約6%(「その他型」「療養型」のみ)、介護医療院の約32%(「Ⅱ型」のみ)と限定的であり、すべての施設に適用されたわけではありません。 そのため、財務省は、残る老健・介護医療院についても、多床室の室料相当額を基本サービス費等から除外するよう、さらなる見直しを行うべきと提言しています。

今後の展望

2割負担の範囲の見直しについては、2022年末までに議論を終える予定でしたが、異例の2023年夏への持ち越しとなり、さらにその後も決着せず、最終的に2023年12月20日の閣僚折衝を経て、政治的な背景も相まって、見送りとなりました。

本来は介護保険制度の持続可能性を確保する観点から実施したかった内容ですが、物価高騰が続く中、与党の支持率も伸び悩んでいたことが影響し、見送りの決定に至った形です。 ただし、これは議題が消失したわけではなく、あくまで継続審議の対象となっています。 第10期介護保険事業計画(2027年度~)の開始前までに結論を得るべきとされており、今後も議論が続くことが予想されます。 最終的には全利用者に2割負担を適用することが本音ではあるものの、急激な変更は難しく、段階的に範囲を拡大していくことになるでしょう。

ケアマネジメントの利用者負担の導入については、ケアマネ協会から毎回根強い反対意見が出ています。 しかし、時流を考慮すれば、導入は避けられないものと思われます。

多床室の室料負担の見直しについては、令和6年度介護報酬改定で一部実施された経緯があるものの、各種協会の反対意見も根強いため、令和9年度介護報酬改定では現状維持となる可能性が高いと考えられます。

これらの提言は財務省の意見であり、厚生労働省の審議会では、これらの意見をもとに介護報酬改定の議論が進められます。 これらの提言がすべて実行されるとは限りませんが、「介護保険給付範囲の見直し」という観点において重要な示唆を含んでおり、令和9年度介護報酬改定への影響は避けられないでしょう。

この記事の執筆者

佐藤 慎也
介護経営コンサルタント

◆プロフィール
組織の仕組みづくりや人材教育などを得意分野とし、介護保険法はもちろんサービス付き高齢者向け住宅、住宅型有料老人ホームなどの制度に精通。 介護経営コンサルタントとして、今までに50法人以上のコンサルティング実績を持ち、自らも介護事業の運営に携わっていたため、経営者からスタッフまで、それぞれの立場にあった指導・提案をすることで圧倒的な支持を得ている。 介護業界の動向を解説したメルマガの発行やコラムの執筆を行いながら、全国各地にて経営者・管理者向けのセミナーやスタッフを対象にした研修まで幅広い分野で年間100本以上の講演を行う。

執筆者

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