介護経営コラム

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財務省からの提言 高齢者住宅の報酬を特定施設の利用上限へ見直すべき

高齢者住宅の報酬を特定施設の利用上限へ見直すべき

財務省が4/16に行った財政制度審議会の『こども・高齢』の資料の中に『高齢者向け施設・住まいにおけるサービス提供の在り方』について論じられている箇所があります。

そこでは【改革の方向性】(案)として以下のような内容が記載されております。
有料老人ホームやサ高住における利用者の囲い込みの問題に対しては、訪問介護の同一建物減算といった個別の対応策にとどまらず、外付けで介護サービスを活用する場合も、区分支給限度基準額ではなく、特定施設入居者生活介護(一般型)の報酬を利用上限とする形で介護報酬の仕組みを見直すべき。

勿論、この内容は財務省からの提言であり直ちに実行されるものではありませんが、財務省としては高齢者住宅に介護サービスの制限をかけ、給付費を抑制したいという考えが良くわかる内容となっております。

令和6年度の介護報酬改定で同一建物減算の割合を10%から12%に引上げましたが、事業所を敷地外に移したり、敷地外でサービス提供する利用者割合を10%以上にすれば12%の減算適用からは免れますので、財務省からしたら財政的に大きな抑制にはならないと思っているかもしれません。

仮に財務省が今回提言しております、区分支給限度基準額ではなく、特定施設入居者生活介護(一般型)の報酬を利用上限とする形で介護報酬の仕組みを見直した場合、介護度5の方で使えるサービス単位が約1万単位減少、介護度4の方で約8,000単位減少、介護度3の方で約7000単位減少になります。

勿論、全ての高齢者住宅等で重度者の方に対して限度額いっぱいいっぱいのサービスを入れているわけではありませんが、介護度が重くなればなるほどサービスを多く使うことが一般的ですから、これを実施された場合、多くの高齢者住宅で経営が立ち行かなくなります。

財務省からすれば給付抑制したいための一手ではあるかと思いますが、事業継続できない事業所が続発すれば困るのは利用者、家族、自治体となります。今後、この提言がどのような形で影響してくるかはよく見ておかなければいけませんね。

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24年度介護報酬改定 介護ロボットやICT等のテクノロジーの活用促進として新たに加算創設

介護現場における介護ロボット導入概況

令和5年2月27日(月)に厚生労働省で開催された第26回社会保障審議会介護給付費分科会介護報酬改定検証・研究委員会にて(5)介護現場でのテクノロジー活用に関する調査研究事業(結果概要)(案)が示されました。

介護ロボットの導入概況

  • 「見守り支援機器」の「入所・泊まり・居住系」における「導入済み」の回答割合は 30.0%
  • 「入浴支援機器」の「入所・泊まり・居住系」における「導入済み」の回答割合は 11.1%
  • 「介護業務支援機器」の「入所・泊まり・居住系」における「導入済み」の回答割合は 10.2%
  • 「移乗支援機器」の「入所・泊まり・居住系」における「導入済み」の回答割合は 9.7%
出典資料:230227介護現場でのテクノロジー活用に関する調査研究事業(結果概要)(案)(厚生労働省)
調査表明 縦置き浴槽タイプ
KGST series
横置き浴槽タイプ
KGS series
多機能コア
KGSB series
①訪問系 3,775 1,346 35.7%
②通所系 2,600 922 35.6%
③入所・泊まり・居住系 9.736 2,958 30.4%
合計 16,111 5,226 32.4%

結果を見ると、見守り支援機器については緩やかですが導入が進んでいる印象を受ける一方で、移乗支援機器や入浴支援機器についてはまだまだ導入されていない事業者さんが多いことがわかります。勿論、介護ロボットというテクノロジー機器の分野になり、天井走行リフトや支柱式リフト、床走行式リフトなどはカウントされておりませんので、介助負担を軽減する機器を導入されている事業者さんはもっと多いことだと思います。

介護ロボットをいずれも導入していない理由としては、③「入所・泊まり・居住系」では、導入費用が高額であるという理由が64%を占める形となっております。

現状、介護ロボット、テクノロジー機器に関わらず、介護現場で必要とされる機器は高額であり、贅沢品という位置づけになっているかと思いますが、人ひとり辞めてしまった場合にかかる損失コストという観点で考えれば、機器は高額ではあるが必需品であるという考え方もできると思います。

24年度改定で新加算創設

2024年度介護報酬改定の大項目の3番目には『良質なサービスの効率的な提供に向けた働きやすい職場づくり』という目標が掲げられており、介護ロボットやICT等のテクノロジーの活用促進として新たに加算が設けられました。
加算要件としては、利用者の安全並びに介護サービスの質の確保及び職員の負担軽減に資する方策を検討するための委員会の開催や必要な安全対策を講じた上で、見守り機器等のテクノロジーを1つ以上導入し、生産性向上ガイドラインの内容に基づいた業務改善を継続的に行うとともに、一定期間ごとに、業務改善の取組による効果を示すデータの提供を行うことを評価する。とされております。

センサーなどの見守り機器やインカム等のICT機器、介護記録の作成の効率化に資するICT機器などの導入が対象となっており、残念ながら今回の要件では介助者の身体負担を軽減する入浴支援機器・移乗支援機器などについての機器は対象となっておりませんが、こちらも加算対象の要件とすることで導入する事業者さんの後押しになるのではないかと思いますので気が早いですが2027年度の改定では対象項目に加わることを期待したいです。

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厚労省 第14次労働災害防止計画においてノーリフトケアを導入している事業場の割合増加を明記

第14次労働災害防止計画について

令和5年2月13日(月)労働政策審議会が加藤厚生労働大臣に対し「第14次労働災害防止計画」について答申を行いました。 その中で労働者(中高年齢の女性を中心に)の作業行動に起因する労働災害防止対策の推進として介護職員の身体の負担軽減のための介護技術(ノーリフトケア)や介護機器等の導入など既に一定程度の効果が得られている腰痛の予防対策の普及を図ることが明記されました。

出典資料:230213第14次労働災害防止計画(概要) (厚生労働省)

第14次労働災害防止計画は、2023年度を初年度とする5年間を対象としたもので、厚生労働省では、この答申を踏まえて計画を策定し、 目標の達成に向けた取組みを進めることになります。

介護現場における2つの指標

介護現場等における具体的な指標としては以下の2点を掲げております。

  • 介護・看護作業において、ノーリフトケアを導入している事業場の割合を2023年と比較して2027 年までに増加させる。
  • 増加が見込まれる社会福祉施設における腰痛の死傷年千人率を2022 年と比較して2027 年までに減少させる。

※H29年~R4年の6年間で腰痛労災件数は1.5倍以上となっております。

さらに国としては『中小事業者の安全衛生対策に取り組む意欲を喚起する一助として、安全衛生対策に取り組むことによる経営や人材確保・育成の観点からの実利的なメリットや安全衛生対策に取り組まないことにより生じ得る損失について、研究を進め、その成果を広く周知する。この際、できるだけ中小事業者の身近な例を研究対象とし、より納得しやすい事例が提供できるよう工夫する。』ことや『事業者が安全衛生対策に取り組まないことにより生じ得る損失等の他、事業者の自発的な取組を引き出すための行動経済学的アプローチ(ナッジ等)などについて研究を進め、その成果を広く周知する。』ことを明記しております。

これからの介護経営における欠かせない取組

ご存じのように介護業界においては人材確保が喫緊の課題となっております。労働災害などにより休職が発生すると現場の負担は増大します。まして、休職から職場に復帰できずに人が辞めてしまうと大打撃となります。このような場合、私の試算になりますが人が一人休職してしまいその間の人員を派遣などでやり繰り、そして結局復帰できないため、新たな雇用をする必要がでてくるため、ざっくりですが100万円程度必要となります。

上記で書かれている『安全衛生対策に取り組まないことにより生じ得る損失』、いわゆる損失コストを考えれば働く労働環境を整えることは必須事項といえます。

現場で働く職員さんが長く、元気に、健康で働くためにも介護ロボットや福祉用具機器を活用した抱え上げない介護を実践していく事は、これからの介護経営においては欠かせない取組になりますね。

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介護業界における労働災害発生状況

R29年度→R4年度で腰痛災害の発生が1.5倍に

令和5年5月23日(火)厚生労働省の労働基準局安全衛生部安全課が令和4年の労働災害発生状況を公表致しました。それによると労働災害による死亡者数は774人(前年比4人減)と過去最少となった一方で休業4日以上の死傷者数は132,355人(前年比1,769人増)と過去20年で最多となったそうです。

社会福祉施設における労働災害発生状況(事故の型別)

出典資料 230523令和4年労働災害発生状況の分析等(厚生労働省)

業種別の社会福祉施設における労働災害発生状況を見てみると、H29年度~R4年度の間で動作の反動・無理な動作、転倒の2項目で労働災害の発生が1.5倍増になっていることがわかります。動作の反動・無理な動作はいわゆる腰痛災害にあたる内容となっております。

働く人の高齢化×ご利用者さまの体格アップが要因?

厚生労働省は平成25年に「職場における腰痛予防対策指針」を改訂し、介護・看護作業における抱上げに関して「移乗介助、入浴介助及び排泄介助における対象者の抱上げは、労働者の腰部に著しく負担がかかることから、全介助の必要な対象者には、リフト等を積極的に使用することとし、原則として人力による人の抱上げは行わせないこと。また、対象者が座位保持できる場合にはスライディングボード等の使用、立位保持できる場合にはスタンディングマシーン等の使用を含めて検討し、対象者に適した方法で移乗介助を行わせること。」と示しました。このような対策の指針などもあり、近年ノーリフトケア活動に積極的に取り組む都道府県や事業者さんなどが多く見受けられるようになりました。

しかし、上記の社会福祉施設における労働災害発生状況(事故の型別)が示すように腰痛災害は減るどころか増加の一途をたどっております。(R3→R4は若干数減少)
この原因はなんなのか?明確な答えがあるわけではありませんが、私の推測では介護現場で働く人の高齢化が要因の1つではないかと思っております。下記の円グラフは毎年夏に介護労働安定センターが公表する介護労働実態調査結果報告書のデータを元に介護職(訪問介護・施設介護職)約45,000人の年齢分布を作成したものとなっております。

このグラフを見て頂くとわかるように60歳以上の介護職が全体の27%、全体の1/4以上を占めていることがわかります。2014年段階では60歳以上の介護職は全体の17.4%でしたので毎年1%以上の割合で増加していることになります。人生100年時代と呼ばれるなかで働く人の年齢が高くなることは自然の摂理かもしれませんが、やはり若い頃と比較すると力などは弱くなりますし、怪我のリスクも高いです。介護職の平均年齢は50歳以上となっており、他の産業と比べると平均年齢が高くなっております。腰痛災害が増加している要因の1つはこの年齢によるものが大きいのではないかと思います。

それともう一つの要因がご利用者さまの体格アップではないかと思います。こちらについてはデータでお示しするものはありませんが、10年~15年前に比べると介護施設のご利用者さまの体格がずいぶんアップしているように感じます。私が現場に携わっていた頃は小柄な女性のご利用者さまが多く、男性のご利用者さまはそこまで多くありませんでした。しかし、時代は変わり今では男性のご利用者さまも多くおられますし、昔に比べると体格の良い方も格段に増えました。体格の良いご利用者さまは高齢の女性職員が抱え上げを行えば当然、腰痛になるリスクは高くなります。

労働災害防止に取り組む意義

出典資料 220307全国介護保険・高齢者保健福祉担当課長会議資料 労働基準局安全衛生部安全課・労働衛生課(厚生労働省)

日本は少子高齢により人口減少、働き手が急減。介護業界においては介護を必要とする人が今後益々増加することを考えればどのように人材確保をしていくかは大きな経営課題となっています。労働災害が発生すれば職員が休業し、その分を他の職員がカバーするための過重労働となり、その人が疲れて離職してしまうことも起こりえます。そうすると人手不足に拍車がかかり、最終的には事業継続に支障がでてしまいます。
働く人が高齢化していく中で、離職防止として入浴支援機器として入浴リフトを導入することや移乗介助機器を導入することで、長く安全に働ける環境をつくることはこれからの経営では必須事項といえます。